東洋大学 情報連携学部 石川 徹 研究室 の紹介です

image of spatial experience

空間のエクスペリエンス

空間の経験とエクスペリエンス評価

  私は、ユーザーエクスペリエンスのデザインや評価について、とくに空間を対象に調べる研究をおこなっています。このように、空間に関する事象を研究する分野は「空間情報学」とよばれますが、ユーザー、製品、サービス、モノ、場所のインタラクションから生じるさまざまなエクスペリエンスを評価しましょうという考え方になります。みなさんの中にも、「地理情報システム(GIS)」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。これは、空間のデータを作成・取得し、目的に応じて利用・保存し、興味のある事象について分析をおこない、得られた結果を表現するという一連の作業をおこなうコンピュータシステムのことで、最近ではみなさんの身近な多くの場面で利用されています。このような、場所の情報とその利用に関する一連のプロセスについての本質的な事柄を研究する分野を、一般に「空間情報科学(GIScience)」とよんでいます。

  ここで、「本質的な事柄」と述べたのは重要な点で、情報・技術といったコンピュータサイエンス的な側面はもとより、場所情報の実世界での応用および実空間への展開といった社会的な側面、そして情報を利用し場所を体験するユーザーの認識や行動という人間的な側面の大きく3つが関連する分野になります。これらの総合的な観点から、広い意味でのユーザーエクスペリエンスを「空間」、「場所」に展開させて考えることに取り組んでいます。評価の対象は多岐にわたり、ナビゲーションなどの位置情報システム、場所のイメージの調査、環境の心理についての考察、頭の中の地図の研究、効果的なビジュアリゼーションの探究、将来のIoT社会をより居住者にやさしいものにするためのアイデア模索など、空間と情報と社会を相互の関連で見ていくことになります。

空間—情報—人間の関わり: 場所におけるユーザーエクスペリエンス

  空間情報学においては数多くの興味深い話題がありますが、なかでも、空間における人間の認知・心理・行動を大きな研究テーマとしています。空間認知の問題は、従来から多くの分野の研究者たちの関心を集めてきましたが、空間情報科学の分野においても人間の認知的側面の重要性が最近注目されています。空間あるいは空間の情報だけではなく、空間の中で行動し空間の情報を利用する人間およびその認知プロセスを見ていこうという考え方です。このような問題意識のもと、広く認知・行動科学の理論と手法をもとに、空間—情報—人間の相互作用に関するさまざまな問題を科学的・実証的に研究することを目的としています。

  具体的には、「空間を認識する、感じる、行動する」と「空間の情報を表現する、伝える、理解する」という2つを主要なテーマとしています。

  1つ目のテーマでは、私たちが空間の知識を獲得し、頭の中に記憶し、その知識を利用する一連のプロセスと、得られた知識(「頭の中の地図」)の構造について、とくに興味をもって研究をおこなっています。また、私たちはどのような景観・環境を好ましいと思うのかといった、空間における人間の心理的・感情的側面(環境心理)も重要な研究課題のひとつです。

  2つ目のテーマでは、利用者の属性や状況・目的に応じて効果的に空間の情報を提示する方法について研究をおこなっています。とくに、各種ビジュアリゼーションの技法やIoT・コンテクストアウェアネスを代表とする情報技術の空間への応用展開と、それらを利用する人間の認知・行動の問題に関心をもっています。

  以上の研究では、方向感覚、空間能力、空間的思考、個人差、ナビゲーション、利用文脈、ユーザー属性などが重要なキーワードとなります。

コンピューティング技術と高度な空間情報社会: 場所情報のデザインと利用

  上記2つ目のテーマにも関連しますが、情報技術社会と空間情報の結びつきについても重点を置いて研究をしています。最近では、空間情報学は、情報空間と現実空間が高度に融合した社会の実現において重要な役割を果たす存在として注目されており、場所をキーとして、「いつでも、どこでも、だれでも」が情報を得ることのできる社会の構築が着実に進んでいます。私は、空間—情報—人間の関わりについての基礎的な研究を通して、「いつ」、「どこで」、「どのような人に」、「どのような目的で」、「どのような方法で」情報を提示すればよいかということを考え、来るべき高度空間情報社会(IoT、状況認識社会)を私たち(居住者、ユーザー)にとってより「よい」、「やさしい」ものにするという目標の実現に貢献できればと思っています。さらに、このような空間情報社会で求められる空間リテラシーの問題についても考えています。

都市居住と都市空間: これからの私たちの都市と居住環境を考える

  また、都市計画の立場から、都市居住に関わる諸問題について、とくに居住者の意識や心理的側面に焦点を当てて研究をおこなっています。たとえば、急速に進む少子高齢化により、今後の都市計画は従来の方法から発想の転換が求められています。都市の縮小にともなうコンパクト化や空地の有効利用、規制型から誘導型の計画への転換などはその代表的な例です。では、都市のコンパクト化を進めるにあたって、さまざまな用途の混在を「適度」に誘導するためのよい方法とはどのようなものでしょうか? 居住者による居住満足度の評価や、生活利便性と居住環境保護の心理的トレードオフなどを考慮しながら、多様な居住者にやさしい都市計画を考えることに取り組んでいます。居住者のエクスペリエンスに配慮した都市計画や居住環境デザインを一緒に考えましょう。

挑戦したい研究テーマ

  卒業論文の研究テーマは、みなさんが興味をもって取り組むことができるものを自由に決めてもらおうと思います。参考までに、これまでに学生が取り組んだテーマや、今後みなさんが挑戦するとおもしろいと思うテーマをいくつかあげると、

などがあります。

  どれも身近な題材ですが、実際に調べてみると、学問的にも応用的にも興味深いことが発見できるテーマです。これらの研究を通して、データにもとづき実証的に調べることのおもしろさを知ってもらえればと思います。

  空間・情報・人間のいずれかに興味をもち、「なぜ?」という疑問をもちながら、それを実際に確かめようという好奇心の旺盛な方を歓迎します。一緒にさまざまな「都市の経験」、「空間のエクスペリエンス」を考えてみましょう。

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